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溶岩流による被害

火山の噴火で生じる被害の中でも、大きな被害をもたらすものひとつに、溶岩流があります。 いわゆる火山の噴火の際に斜面を流れてくる赤い液体状のものが溶岩流です。火山の噴火と聞いて、誰もが真っ先にイメージするのが溶岩流ではないでしょうか。

実際には火山が噴火したら必ずしも溶岩流が生じるわけではありませんし、過去には溶岩流のなかった大規模噴火もありますから、火山の噴火=溶岩流の発生というわけではありません。富士山の噴火でも貞観の噴火では大量の溶岩流が流出しましたが、宝永の噴火では溶岩流は見られませんでした。次の噴火がどのタイプになるのかは、今の段階ではわからないのです。そのため、防災計画では溶岩流が発生することも考えて避難経路などを決める必要があります。



溶岩流とは

溶岩流とは、地中のマグマが火山の噴火とともに火口から流れ出たものです。 1000度以上の高温で、山肌を流れ落ちながら木々や建物などを焼き払い、飲み込んでしまいます。

溶岩流は、土地によって成分が違い、それによって流れ方やスピードなども全く違ってきます。マグマに含まれる二酸化ケイ素の量で粘性が違うといわれており、最も含有量の少ない玄武岩の溶岩流は、サラサラしているため流れが速いのが特徴です。それでもせいぜい時速30km前後ですので、十分に逃げることは可能です。実際、溶岩流に飲み込まれて人が亡くなったということはあまりありません。

安山岩、デイサイト、流紋岩の順に二酸化ケイ素の含有量は多くなり、それにつれて粘度も高くなります。日本の火山は、安山岩やデイサイト質のものが多いようです。雲仙普賢岳の昭和新山はデイサイト質の溶岩であり、噴出したもののほとんど流れることなくその場で溶岩ドームを形成しました。富士山は基本的には玄武岩でできているため、溶岩が流出すると流れやすいものになる可能性が高くなります。


溶岩流の制御

エトナ山の溶岩流 溶岩流は飲み込まれた時の被害は大きいものの、速度が遅く、進路の予想などもしやすいため、現在あちこちで溶岩流を制御する試みが行われています。

1973年のアイスランドのヘイマエイ島での噴火の際は、流れてくる溶岩流から港を守るため、溶岩流の最前線に海水を放出し、強制的に温度を下げて固化することで食い止めました。また、富士山と同様の規模をもつイタリアのエトナ山でも、溶岩流の流れをせき止める堤防や溝を作り、他の方向に流すことによって市民が暮らす地域を守ることに成功しました。もちろんすべて思うように制御できたわけではありませんが、街を守るという最大の目的は果たしたのです。

溶岩流の制御は、その進行方向を変えるだけでも画期的なものですが、人為的に進行方向を変えた場合、その先にいる人たちに不利益が生じて、訴えられるリスクもあります。それでも人命や主要な建造物を守ることができれば、それは大変価値のあるものです。

今後も溶岩流制御のための研究が進むことが期待されます。



富士山と溶岩流

富士山の場合、平安時代の貞観の噴火では大量の溶岩流が発生しましたが、江戸時代の宝永の噴火では溶岩流は現れませんでした。もともと、富士山は噴火の際の現象が非常に多様なことでも知られており、「噴火のデパート」と呼ばれるほどですから、次の噴火がどのようなものになるかを判断するのは困難です。

青木ヶ原の樹海 貞観の噴火では、複数の火口から大量の溶岩流が流れ出しました。溶岩流を含めた噴出物の総量は約14億立方メートルといいますから、世界的に見てもきわめて大規模な噴火だったことがわかります。この噴火で流れ出た溶岩流は山肌を覆い、さらにふもとにあった広大な「せのうみ」の大部分を埋め尽くしました。現在の西湖と精進湖は、せのうみが分断された残りの部分です。富士山から扇状に広がり広範囲に流れ出した溶岩流の上には、1000年かけて植物が繁殖し、現在では木や草の生い茂る青木ヶ原の樹海となっています。

一方、宝永の噴火では大量の噴石や火山灰が飛散しものの、溶岩流は現れていません。同じ富士山の噴火でも、その様子は全く異なっているのです。

現在は、ハザードマップなどに富士山が噴火した時に溶岩流が到達する可能性がある範囲などを表示して、周囲の市民への周知を行っています。実際の噴火でどの程度の溶岩流が発生するのかを判断するのは難しいのですが、その量が被害の大きさを左右することは間違いありません。



溶岩流のその後

溶岩流は冷えると黒く固まるため、独特の形状を作ることがあります。特に安山岩やデイサイトの火山の場合、粘度が高いため、流れている溶岩がそのまま盛り上がった形で固まっているものも多く、観光スポットになっている場合もあります。

岩手県の焼走り溶岩流は、岩手山の噴火によってできた扇状の溶岩流で、国の特別天然記念物にも指定されています。また、観光地として有名な鬼押し出しも、浅間山の噴火の時の溶岩流が流れた跡です。