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山体崩壊とは

富士山が噴火した場合、その衝撃で大規模な山体崩壊を起こす可能性があるといわれています。 現在のハザードマップや被害予想は山体崩壊が起こらないという前提で作られていますが、万が一山体崩壊を起こした場合、その被害はこれまでの想定を大幅に上回る可能性があるのです。

実際、富士山は過去にも山体崩壊を起こしたことがありますし、富士山のような成層火山は比較的山体崩壊を起こしやすいといわれています。いざというときに「想定外だった」ということにならないためにも、山体崩壊を起こした時の被害予想や避難マニュアルなども検討しておくことが必要なのではないでしょうか。



山体崩壊とは

山体崩壊とは、文字通り山の一部が崩壊することをいいます。普通の山では大規模地震が起きても山体崩壊を起こすことはほとんどありません。これは、山の成り立ちが基本的に違うためです。

火山の場合、噴火を起こすたびに溶岩などが層を作り、場合によっては溶岩ドームなどが折り重なるようにして徐々に大きく成長していきます。特に、富士山のような成層火山は噴火のたびに噴出物が堆積し、それが山肌に層となって重なっています。同じ火山の噴火でも、そのたびに噴出物の成分や内容は違っていて、それは山体崩壊などで山肌が削られた時に現れる地層を見ても明らかです。このように、さまざまな成分が折り重なるようにしてできた火山は、構造的に不安定であり、噴火や地震などの衝撃で大きく崩壊してしまうことがあるのです。

さらに、現在も活動が続いている火山では、内部でマグマ溜りがうごめき、高温の温泉水が地下を流れていたり、噴出していたりする場合もあります。本来丈夫であるべき岩盤が、高温の温泉水などのために変質し、脆くなっていることも多く、崩壊につながりやすいのです。


山体崩壊の危険性

山体崩壊が起こった場合、その被害は現在の予想から格段に多くなります。現在のハザードマップによると、溶岩や火砕流、大きな噴石が到達する範囲が頂上から10〜15km圏内、噴火の状況によって避難が必要になるのが10〜20km圏内だと想定されています。もちろんそれ以外の地域にも火山灰は降りますし、噴石が飛んでくる可能性はあるとされていますが、噴火によって命に関わるような被害があったり、避難が必要になったりするような想定はされていないわけです。

しかし、富士山のような大きな火山で大規模な山体崩壊が起こった場合、崩れた土砂は35km先まで到達する可能性があります。南の方向、富士市の方に山体崩壊が起きたとすると、その土砂は駿河湾まで達することになるのです。2012年8月21日に行われた、地震・火山対策分科会では静岡大学の小山真人教授が、「富士山が山体崩壊した場合、被災人口は最大40万人に及ぶ。山体崩壊の可能性を噴火時に起こりうる現象として想定するとともに、ハザードマップに加えるなどの検討が必要だ」と発表して話題になりました。

現在のところ、山体崩壊のメカニズムは完全に解明されているわけではありません。噴火の場合に起こりうる現象として想定に加えることはできても、実際にどの斜面がどのように崩壊するかを予知することは難しいのです。富士山では2400年前にも山体崩壊を起こした形跡があり、その際は現在の御殿場市一帯は土砂に埋もれてしまいました。現在同じようなことが起これば、もちろん被害は甚大です。


過去の山体崩壊の例

日本で過去に起こった山体崩壊の中でもよく知られているのが、1888年(明治21年)の磐梯山噴火による山体崩壊です。これはマグマが噴き出るような噴火ではなく、水蒸気爆発が引き起こした山体崩壊でした。崩壊前の磐梯山にはいくつもの温泉が湧出しており、湯治場として多くの人に利用されていました。爆発の1週間ほど前から地震が何度も起こっており、噴出する水蒸気が多くなっていたため、湯治客の多くは下山していましたが、それでもいくつかの村や温泉街が岩屑なだれや土石流で埋没し、爆発の際の爆風に襲われた人を含めると、死者・行方不明者477人という大きな被害になりました。


山体崩壊の前と後のセントへレンズ山 ウィキペディアより また、アメリカのセントへレンズ山は、1980年の大爆発による山体崩壊で山頂部分が大きく喪失して、2,950mあった標高は2,550mになりました。頂上が最も高くなる富士山のような美しい円錐形をしていた山の頂上は大きく陥没し、その形状は爆発前後で大きく変わってしまいました。被害も大きく、建物200棟、橋47本が失われ、高速道路300mが破壊されました。爆発の際の横殴りの爆風もすさまじく、北に11kmまでの地域は跡形もなく吹き飛ばされ、22km先の木もなぎ倒されました。最終的には東京23区の面積に相当する600平方キロメートルが大きな被害を受けました。ただし、ハザードマップなどにより事前の危険予測が行われており、立ち入り制限がされていたことで死者の数は57人と最小限に留めることができたとされています。