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火砕流による被害

ウィキペディアより 火砕流は、火山の噴火が引き起こす災害の中でも最も警戒するべき現象の一つです。 遠くから見ると煙のようにも見えますが、火砕流は火山の噴出物などが火山ガスなどに混ざったもので、非常に高温になります。しかも、時速100kmを超える高速で山肌を降下するため非常に危険で、過去にも世界各地で大きな被害を何度も出しています。




火砕流とは

火砕流とは、火山の爆発で生じた火山ガスや水蒸気に、軽石や火山灰などが混ざり合って、雲のような外観の流動体になったものを言います。その成分は、火山のある地域や火山によって異なり、火山灰が多く含まれているものや、もう少し大きな塊が多いものなどさまざまです。

火砕流は空気より重たいため、水が流れるように山肌を流れ落ちます。昔は熱雲と呼ばれていたとおり、温度は600〜700度と非常に高温で、しかも流れ落ちるスピードは時速100q以上。時速200qを超えるものも珍しくありませんから、発生後、近づいてくるのを確認してから逃げていたのでは到底間に合いません。そのため、大規模な火砕流で命を落とす犠牲者も多く、火山噴火による災害の中でも最も危険な現象だといわれているのです。

固形物が少なく、火山ガスがそのほとんどを占めるものは火砕サージと呼ばれ、こちらも非常に速いスピードで移動しますが、火砕流に比べると持続時間も距離も短く、多くの場合5q程度しか到達しないといわれています。とはいえ、到達した場合の被害は火砕流と変わりないので、警戒が必要なことには変わりありません。


火砕流による被害例

火砕流は、火山の噴火において必ずしも発生するわけではありませんが、大規模な火砕流が発生した場合には人的被害が大きくなるのが特徴です。車でも逃げ切れないほどのスピードがその理由として大きく、迫ってきてから逃げたのでは逃げ切れないため、火砕流が到達する可能性がある地域は、事前に避難しておくしかないのが現状です。

世界で最も大きな被害をだした火砕流は、1902年に起きた西インド諸島マルチニーク島のプレー火山の噴火です。発生した火砕流は大規模なものではありませんでしたが、火砕流の側面を走る火砕サージが6q離れたサンピエール市を直撃。わずか3分間で2万8千人が犠牲になる大災害になりました。生存者はわずか2人で、市街地はもちろん、港に停泊していた船も全滅したこの火砕流による被害は、20世紀最大の死者を出した火山災害です。

また、1991年のフィリピン・ピナツボ火山の火砕流は、その規模の大きさで特筆すべき火砕流です。山頂から20kmの地点まで到達した火砕流は、100平方kmを埋め尽くしました。20世紀最大といわれる大規模な火砕流ですが、ほとんどの人が事前に避難をしていたため、人的被害は最小限にとどまりました。

雲仙普賢岳の火砕流 土木学会火山工学研究小委員会HPより 日本では、1991年の雲仙普賢岳の噴火で発生した4.3kmにまで到達した火砕流で、43人が犠牲になりました。この時の噴火では、溶岩が噴出するというよりも、溶岩ドームを徐々に成長させるような流出が続き、成長した溶岩ドームの一部が崩れて火砕流を起こすということの繰り返しで、溶岩の流出が収まるまでに実に9,425回もの火砕流があったとされています。もちろんこれは小さくて部分的な火砕流も含んでおり、何らかの被害があったのはこのうちの6回です。



富士山の噴火と火砕流

富士山の噴火でも過去には火砕流が発生しています。そのため、富士山のハザードマップには、火砕流が到達する可能性がある範囲を山頂から10kmとして記載されています。これは、過去3000年の富士山の噴火内容からハザードマップ検討委員会が作成したものですが、2010年の日本火山学会では富士常葉大学の嶋野准教授のグループが、約8400年前に山頂から17kmの地点まで火砕流が到達していた痕跡があったことを発表して話題になりました。過去にそれだけの火砕流が起こったことがあるのならば、もっと広範囲に注意を喚起するべきではないかという声が上がっているのです。

火砕流は、溶岩流などとは比較にならないほどスピードが速いので、迫ってから逃げたのでは間に合いません。事前に避難しておくことがどうしても必要になるため、ハザードマップに記載する範囲や、警報を発令するかどうかがとても大切になってきます。

宝永の噴火は大規模なものではありましたが、溶岩流や火砕流は発生しませんでした。このように、大規模な噴火でも火砕流が発生しないこともあるので、避難するかどうかを判断するのは難しいものです。しかし、逃げる暇がない火砕流の場合には、勇気をもって広範囲に避難を促すことも必要なのかもしれません。